片想い





日常が退屈だとは言わない。
毎日楽しいかと聞かれればそんなことはないけれど。
少なくとも、考えることがありすぎて、退屈では、ない。
「春原」
ぼけぇっと目の前の顔を眺めていたら、いつの間にかその顔が目の前に迫っていた。
「うぉあっ!?」
思わず後ろへ仰け反り、椅子に反対向きで座っていた所為で机に背中を強か打ちつけてしまう。
地味に痛いそれに耐えていると、岡崎が呆れたように溜め息を吐いた。
「なにぼけっとしてんだよ」
「いや、なにか面白いことないかなぁと…」
「十分面白いぞ、俺は」
岡崎はそう言って嫌味っぽく笑う。
反論する気にもなれなくて、力なく失笑を漏らして僕は机に突っ伏した。
「…どうしたんだよ、春原」
「んー…いや…」
苦しいだとか、言えるはずもない。
「元気ないなんてらしくないぞー」
「…ちょっと寝不足かも」
「お前、授業中あれだけ寝ててまだ足りないのか」
「うるさいよ」
顔を埋めた腕の中、少し強めに眼を瞑った。
僕はなにか、どこか間違っている気がする。
どうして友達なんだとか、一番近くにいるのは僕なのにとか、そう思うこと自体が間違いでしかない。
胸が苦しいだなんて変だ。
「おい、寝るなら自分の席で寝ろよ」
さらり、と後頭部を梳く感触がして、一瞬身体を強張らせた。
ひとつ撫でただけで離れていった岡崎の手に、一拍置いてからゆっくりと顔を上げる。
「…席、戻るわ」
ガタリ、と席を立つ僕を追うように岡崎の視線が動く。
振り向きたいのと振り切りたい気持ちが鬩ぎあって、殊更ゆっくりとその場を離れた。
「おい春原、本当に大丈夫か?」
追い掛けてくる言葉が、優しさが、嬉しいのにすごく苦しくて。
「だーから眠いんだって。安眠妨害するなよ!」
見下ろしながらびしりと指を突きつけたら、岡崎が呆れたように「あーはいはい」とおざなりな返事をした。
できるだけ不遜に見えるような作り笑いをして、くるりと踵を返す。
やっぱり絶対どこかおかしい。
こんなにつらくて、泣きそうで、胸が苦しいなんて。
恋ってこんなに切ないものだっただろうか。





20080313
某岡春MADより

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