カラダ先行 いち










「う、あ…っちょ、待て、おかざ…!」
「待てって言われても、な…!」
抉るように捻じ込まれた質量に、下腹部が滑稽なほどひくひくと痙攣を起こす。
ローション代わりに使われたハンドクリームが、蓋を開けた状態で転がっているのが見えた。
蓋を閉めなくちゃ、と思ってからはたと気づく。
お互い荒い息のまま、僕はうつ伏せの状態から岡崎を仰ぎ見た。
眉間に皺を刻んで複雑な表情をした岡崎とカチリ、視線が合う。
「……………」
「……………」
暫しの無言。静寂。沈黙。
岡崎の後ろに見える天井は見慣れた寮の僕の部屋のもので、つと視線を巡らせれば見飽きたとも言える自分の部屋。
そして下腹部と、…あらぬところへの異物感、気だるい身体、荒い息。
それから、岡崎。
「……な、なんで?」
どこから突っ込んだらいいかわからず、とりあえず全ての疑問を織り交ぜた疑問詞を呟いた。
混乱し始める頭に返答は期待していなかったが、別段岡崎の返答を期待したわけでもない。
「俺に聞くな…」
溜め息を吐いた岡崎から振動が伝わり、奇妙とも言える異物感を齎すものが蠢いたことで掠れた音が唇から漏れる。
音というより吐息に近いその声がなんだか恥ずかしくて、知らず顔に熱が集まってきた。
混乱と興奮で頭がクラクラして、涙で視界がぼやけてくる。
「おかざ、き…」
確か、最初は狭いコタツの中で、暇すぎるあまり岡崎と足で格闘、とかしていた気がする。
それがエスカレートして、足を引っ張られてコタツの中を通り抜けて、岡崎の方へ出たと思った途端、待ち構えていた岡崎にこちょこちょされて、それから…
「悪い、ちょっとばかし悪戯が過ぎたな…」
経緯を整理していた頭が、ずっこけたようにまた混乱した。
これまでどんな悪戯をしようと誠意を持って謝らなかった岡崎が、自主的に、悲痛そうに、さも悪いと思っているかのように、僕に謝った。
明日は雪どころか日本沈没するかも知れない。
それくらいありえないことだ。頭の中が混乱を通り過ぎて真っ白になっていく。
「つ、つうか、なんで、こんな、ことに…?」
ホワイトアウトしかける脳内を必死で繋ぎ止めて、とりあえず目下最優先にして聞くべきことを端的に問い掛けた。
シンプル且つ直球で聞いた僕に、同じように岡崎が返してくる。
「さあ?」
先刻の謝罪は幻聴かと思うほど、あっけらかんと言われて思わず額をフローリングに打ち付けた。
ごん、と鈍い音が室内に響き渡る。
「あー…えっと、春原?」
戸惑うように呼びかけてくる岡崎に、答える気力がない僕はただ脱力した瞳を岡崎に向けた。
視線がかち合った瞬間、何故か未だに収まったままの岡崎のモノが質量を増す。
「ちょちょちょ岡崎さん!?なんで興奮してるのあんた!」
吃驚して思わず逃げ出そうとした僕に、何故か岡崎ががちりと僕の腰を掴んで、一言。
「いや、なんか、煽られた」
「はいぃいいいいいい!?」
べし、と僕の掌がフローリングを叩く。
どうしよう、この体勢じゃ、逃げられない。
「このままってのもツラいし、付き合えよ、春原」
かぷ、と首筋を甘噛みされて、気持ちよくしてやるから、なんて耳元で囁かれて、力が抜けてしまった僕自身を、僕は心底恨んでやりたい。
というか、恨むべき諸悪の根源はこの、岡崎朋也であるのだけども。





20080314
馴れ初め話いち

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