※岡×渚と春×風










なんだろう、この可愛い生き物は。
目の前で一生懸命にパフェを頬張る姿に、思わずそう思った。










だぶるデート










発端は渚ちゃんの一言。
「4人でダブルデートしませんか?」
発想が古い、と嘆いたのは岡崎で、風子は「だぶるでーと、ですか!」と興味津々だった。
僕は勿論、4人で出掛けることに異存はなかったのでそれを促した。
ダブルデートと銘打たなくても4人で出掛けるんだと思えば、いつものこととはいえわくわくする。
私服で街中を、4人で歩くのはたぶん初めてだ。
特に目的もなくゲーセンやら小物ショップやらをぶらぶらして、一休みするかと入ったファミレス。
そこで風子が
「風子、パフェが食べたいです」
なんて言い出して、渚ちゃんが
「あ、私も食べたいです」
とか言って笑いあうもんだから、岡崎と二人苦笑した。
スタンダードなチョコバナナパフェにするか、新商品のプリンパフェにするか真剣に悩み始めるのだから可愛いことこのうえない。
岡崎もそうなんだろう、呆れ混じりに微笑んでいた。
「じゃあふたつ頼んで半分こしましょう、ふぅちゃん」
ね、と笑う渚ちゃんに風子がグッと親指を突き立てる。
「ナイスアイデアです!」
…あの親指はもしかしなくても、僕と岡崎のが移ったんだろうか。
はは、と岡崎と顔を見合わせて失笑していると風子が机上のボタンに手を伸ばした。
「このボタン、風子が押してもいいでしょうかっ」
なにをそんなに興奮するんだ、風子よ。
まるで数回しかファミレスに来たことのないような子供に見えて、思わず笑ってしまった。
可愛いなぁ、と思いながら「いいんじゃないの」と促してみる。
「ふぅちゃん、押してくださいっ」
渚ちゃんにも背中を押され、風子が「いきます…」と神妙にボタンに手を添える。
押すか、と思った瞬間、横から手が伸びた。
ぽちっ。ピンポーン!
風子の指の上に、岡崎の指が乗っていた。
僕は思わず机に突っ伏して声もなく爆笑する。
「朋也くんっ」
渚ちゃんの非難の声にも、岡崎は笑って悪びれた様子はない。
風子が心底怒ったように「岡崎さん、最悪です」と岡崎を睨んだ。
「まぁまぁ、また来た時に押せばいいじゃないの」
笑いながら宥めても効果はあまりないようで、むっとして唇を引き結んだ風子に
「春原さんも最悪です。笑いすぎです」
と非難されてしまった。
それでも、おかしいものはおかしいのだから仕方がない。
「ご注文お決まりですか〜」
店員のお姉さんの声が割って入る。
岡崎と渚ちゃんがパフェとプレミアムカフェを頼む間、僕は笑いながら風子と睨み合った。
「また連れてきてやるから、拗ねるなって」
「風子、拗ねてません。怒ってます」
「じゃあ怒るなって」
「それは春原さんの態度次第です」
「原因は岡崎なのに?」
「う…そ、そうでしたっ」
僕から視線を逸らすと、思い切り良く岡崎の方を睨みつけた。
…と思ったけれど、岡崎の姿がない。
「渚、なに飲む?」
「えっとですねー…」
注文はいつの間にやら終わったようで、プレミアムカフェに向かっているところだった。
無言で二人を見つめ、無言で視線を風子に戻す。
…いない。
「渚さんっ」
「あ、ふぅちゃん。春原さんとのお話は終わりましたか?」
目を離した一瞬の隙に席を立ったようだった。
まったく、少しは遠慮してやれよと思う。
いやまぁ、一緒に暮らしてる二人なんだし、そこまで気を遣う必要もないかも知れないけども。
(でもさぁ、ほら…付き合ってるのは僕なんだし)
優先順位が渚ちゃんの方が上にいる気がするのが少し癪だ。
「いじけてんなよ、ほら」
戻ってきた岡崎が僕の前にコーヒーのカップを置いた。
「別にいじけてねぇよ」
渚ちゃんと風子は楽しそうにプレミアムカフェの前をうろうろしている。
どれにしようか決めあぐねて、それをまた楽しんでいるようだった。
ず、とコーヒーを一口含む。
「お待たせ致しました〜」
店員のお姉さんの声と共にパフェが到着した。
僕と岡崎の目の前にそれを置き、お姉さんは足早に去っていく。
「……………」
「……………」
二人が席を立っていたのだから仕方ないとはいえ、こんな甘いものを食べるのかと思われたと思うと、なんというか、閉口する。
岡崎とふたり無言でそれを向こう側へと滑らせた。
「あ、パフェ来たんですか」
戻ってきた渚ちゃんが嬉しそうにパフェを見る。
「半分こです」
「はい、半分こです」
嬉しそうな二人が微笑ましい。
食べ物を頼んでいなかったから特にやることもなく、コーヒーを啜りながらぼんやりとふたりを見ていた。
幸せそうにパフェを食べる女の子二人。
なんというか、純粋な意味で興奮するな。
思わず頬が緩んでしまうと、すかさず岡崎から「春原、顔緩んでるぞ」と突っ込まれた。
別に自分の彼女を見てデレっとしてるんだからいいじゃないか、と思ったものの黙っておく。
取り繕うようにコーヒーを啜った。
ぱく、と一口含んだ渚ちゃんが不意に目線を上げると、岡崎と目が合ったのか幸せそうに微笑む。
「パフェ、おいしいです。えへへ」
ちらりと横を見れば岡崎の頬も緩んでいた。
「岡崎、顔緩んでるぞ」
岡崎にだけ聞こえるように呟いてやる。さっきのお返しだ。
ふふん、と笑って目の前に視線を戻すと、脇目も振らずにパフェを食べる風子が目に入った。
なんというか、ものすごく一生懸命だ。
「風子、」
呼んでみるも、返事がない。
ぱくぱくと一生懸命にパフェを食べる姿が非常に可愛い。ものすごく可愛い。
なんだろうこの可愛い生き物は。
「風子、ついてる」
ほっぺたについていたチョコレートを、親指で掬い取った。
それでやっと呼ばれたことに気づいたのか、風子が食べるのをやめて僕の方を見る。
きょとん、とした表情の風子を見ながら親指を舐めた。
「今、風子になにかしましたか」
「ああ、ほっぺたにチョコついてた」
ぱちくり、とお互いに瞬きを数回。
聞こえたのは溜め息が、真横から。
「おまえ…それは無意識か」
「はぁ?」
額を覆う岡崎に怪訝な視線を送る。
「ふぅちゃん、羨ましいです」
少し顔を赤くした渚ちゃんが風子にそう言った。
「羨ましいのかよ…!」
苦々しそうに岡崎が呟く。一体なにがだ。
こてり、と風子は首を傾げる。
そして気づいたように首を戻した。
「あぁっ、半分こでした!危うく忘れるところでした」
パフェはちょうど半分ほど残っている。
「あ、じゃあ残りはふぅちゃんにあげます」
半分以上残っているプリンパフェと、風子のチョコバナナパフェを交換して渚ちゃんは微笑んだ。
「い、いいんでしょうかっ」
興奮気味に風子が聞く。とても嬉しそうだ。
「はいっ」
笑顔で嬉しそうに答える渚ちゃんは、やっぱりいい子なんだなぁ、とぼんやり思った。










彼女に払わせるほど野暮じゃないよ、と渚ちゃんと風子を先に店から追い出す。
渚ちゃんは遠慮していたけれど、風子に限っては
「こうゆうところは男の人が払うべきなんです。行きましょう、渚さんっ」
と意気揚々と店から出て行った。
ああいうのを見ると払わせたくなる僕って天邪鬼かな、はは。
「払わなきゃダメかな…」
頬を引き攣らせながら岡崎に問い掛けてみる。
「彼女の分くらいきちんと払えよ」
「わかってるけどさ」
「んじゃ俺と渚の分もよろしく」
「ああ…っておい!」
先に店を出ようとする岡崎の襟首を捕まえる。
嫌そうな顔をした岡崎に頬を引き攣らせた。
「あんたねぇ…」
「ちっ、ダメだったか」
「当たり前でしょーが!」
まったく、と溜め息を吐きながらレジと向き合う。
別会計にしてもらい、それぞれ会計を済ませると扉を押し開いて外へ出た。
「あ、朋也くん」
真っ先に駆け寄ってきたのは渚ちゃんだった。
「あの、すいません、払わせてしまって…」
「いいよ、これくらい」
うんうん、渚ちゃんはいい子だなぁ。本当に羨ましい。
なんて思いながら二人を見ていたら、不意に岡崎が腰を屈めて渚ちゃんに顔を近づけた。
「え、えっ…と、朋也くん!」
この角度からだとキスしているように見える。
白昼堂々店の前でキスだなんて、やるなぁ岡崎、と思いながら口笛をひとつ。
口笛の音に僕が見ていることに気づいた渚ちゃんが、ぐい、と岡崎の胸を押した。
「あああ、あのっ」
「ついてた」
とんとん、と岡崎が自分の頬を押す。
それに渚ちゃんはあからさまにほっとしたように肩を落として、息を吐いた。
「あ…そうだったんですか。ありがとうございます」
えへへ、と笑う渚ちゃんの頬は少し赤い。
ついてた、とはいえあれじゃあキスしてたようにしか見えないっつの。
それを理解しないところが、渚ちゃんの可愛さなんだろうなぁ。
(へいへい、ご馳走さまでしたっと)
溜め息を吐いてちらりと風子を見る。
ぱちりと目が合うと、風子がたたたっ、と此方に走ってきた。
「春原さんっ」
「ん?」
「パフェ、おいしかったです!」
えへへ、と笑う風子が、可愛くて仕方ないのだから、まぁ。
「………あ、そ」
僕も岡崎も、お互いさま、なのかも知れない。



「また奢ってください!」
「おまえねぇっ!」





20090304
ばかっぷるず(複数形)

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